カーボンプライシングに備えるため、自社のCO2排出量はなぜ重要で、どう算定すれば良いですか?
カーボンプライシングという言葉を聞くと、漠然とした不安を感じる中小企業経営者の方もいらっしゃるかもしれません。特に、「自社のCO2排出量をなぜ知る必要があるのか」「どうやって計算すれば良いのか」といった疑問は、多くの企業が抱える共通の課題です。
この疑問への答えは、カーボンプライシングへの対応の第一歩として、自社のCO2排出量を把握することが非常に重要である、ということです。排出量を算定することは、将来的なコスト負担に備えるだけでなく、事業を継続・発展させていく上での大きなチャンスにもつながります。
なぜ自社のCO2排出量算定が重要なのでしょうか?
中小企業の皆様にとって、自社のCO2排出量を算定することが重要である理由はいくつかございます。これらは、将来的な事業の安定性や競争力に関わってくるため、ぜひご理解いただきたいポイントです。
1. カーボンプライシングへの備えになるため
カーボンプライシングは、CO2排出量に応じてコスト(負担)が生じる仕組みです。現状、中小企業の多くは直接的な対象ではありませんが、今後の社会情勢の変化によっては、より広範な企業に適用される可能性も考えられます。排出量を把握していれば、将来的に新たな制度が導入された際にも、自社への影響を正確に予測し、適切な対策を講じることが可能になります。例えば、排出量に応じて課税される「炭素税」や、排出枠を売買する「排出量取引制度」などがこれに当たります。
2. 大手企業からの要請に応えるため
サプライチェーン(製品の原材料調達から生産、消費、廃棄に至る一連の流れ)全体でのCO2排出量削減を求める動きが加速しています。特に大手企業は、自社だけでなく取引先の中小企業にも、CO2排出量の開示や削減目標を求めるケースが増えています。排出量を算定していれば、こうした要請にスムーズに応えられ、取引関係の維持・強化につながります。逆に、対応できない場合は取引機会を失うリスクも考えられます。
3. コスト削減や生産性向上のきっかけになるため
CO2排出量の多くは、エネルギーの使用量と深く関係しています。排出量算定の過程で、どこで、どれくらいのエネルギーを使っているのかが明確になります。これは、無駄なエネルギー消費を見つけ出し、省エネ対策を進めることで、結果として電気代や燃料費といった事業コストの削減につながる可能性があります。また、設備の効率化は生産性の向上にも寄与するでしょう。
4. 企業イメージ向上や新たな事業機会の創出につながるため
脱炭素社会への貢献は、企業の社会的責任(CSR)として重要視されています。CO2排出量削減に取り組む姿勢は、顧客や地域社会からの信頼を高め、企業イメージの向上につながります。また、環境に配慮した製品やサービスは、新たな市場ニーズに応える可能性も秘めており、新たな事業機会の創出につながることも考えられます。
中小企業がCO2排出量を算定する具体的なステップ
排出量の算定は難しそうに感じられるかもしれませんが、中小企業でも取り組みやすい方法から始めることができます。まずは、無理のない範囲で第一歩を踏み出すことが重要です。
ステップ1:算定の対象範囲を決める
最初に、どの範囲のCO2排出量を計算するのかを決めます。専門用語では「スコープ」と呼ばれますが、中小企業の皆様は、まず自社で直接排出しているものと、電気や熱の使用による間接排出量を把握することから始めるのが現実的です。
- スコープ1(直接排出): 自社の事業活動から直接排出されるCO2。例えば、工場や営業所のボイラーで使用する燃料、社用車やフォークリフトの燃料などが該当します。
- スコープ2(間接排出): 他社から供給された電気や熱の使用に伴うCO2排出量。購入した電力や熱がこれに当たります。
- スコープ3(その他間接排出): スコープ1、2以外の事業活動に関わるCO2排出量。例えば、製品の輸送、従業員の通勤・出張、廃棄物の処理、購入した製品やサービスの製造など、多岐にわたります。中小企業がスコープ3まで算定するのはハードルが高い場合が多いため、まずはスコープ1とスコープ2から着手することをおすすめします。
ステップ2:必要なデータを集める
対象範囲が決まったら、実際にCO2排出量を計算するためのデータを集めます。普段の事業活動で発生するデータがそのまま使えることが多いです。
- 電気の使用量: 電力会社からの請求書に記載されている月々の使用量(kWh)。
- ガスの使用量: ガス会社からの請求書に記載されている月々の使用量(㎥)。
- 燃料の使用量: 軽油、ガソリン、灯油などの購入量や消費量。
- 水道の使用量: 水道料金の請求書に記載されている使用量(㎥)。
- 廃棄物の量: 産業廃棄物処理業者からの報告書に記載されている種類と量。
- 出張や通勤: 航空機や鉄道の利用距離、社用車の走行距離、など。
これらのデータを、できれば1年間分、月ごとにまとめることで、季節ごとの変動なども把握しやすくなります。
ステップ3:算定ツールや専門家を活用する
集めたデータを使ってCO2排出量を計算します。計算には、「排出係数」と呼ばれる、エネルギー消費量あたりに排出されるCO2の量を表す数値が必要になります。
- 簡単なExcelシートや国の提供ツール: 中小企業でも利用しやすいように、環境省などがCO2排出量算定ツールやテンプレートを無料で提供している場合があります。まずはこうしたツールを活用して、自社で試算してみるのが良いでしょう。
- 地域の商工会議所や中小企業診断士への相談: 自社での算定が難しいと感じる場合や、より正確な情報を得たい場合は、地域の商工会議所や中小企業診断士、環境コンサルタントといった専門家に相談することも一つの方法です。具体的なアドバイスや支援を受けることで、スムーズに算定を進められる可能性があります。
ステップ4:算定結果を見直し、削減策を検討する
算定したCO2排出量は、一度計算して終わりではありません。定期的に見直し、排出量の変化を追跡することが大切です。そして、排出量の多い部門や工程を見つけ出し、具体的な削減策を検討します。
- 省エネ設備の導入: LED照明、高効率エアコン、インバーター搭載モーターなど。
- 再生可能エネルギーの導入: 太陽光発電の設置、再生可能エネルギー由来の電力への切り替えなど。
- 業務プロセスの改善: 無駄な電力消費がないか、効率的な輸送ルートの検討など。
- 従業員への啓発: 節電・節水意識の向上、エコ通勤の推奨など。
まとめ:まずは「できること」から始める一歩を
CO2排出量の算定は、カーボンプライシングへの対応だけでなく、企業の持続可能性を高める上で非常に重要な取り組みです。中小企業だからといって難しいと諦める必要はありません。まずは自社の事業で、どこからどれくらいのCO2が出ているのかを把握する、その第一歩を踏み出すことが肝心です。
身近なデータから算定を始め、国の提供するツールや地域の相談窓口を積極的に活用することが考えられます。小さな一歩が、将来の事業を守り、発展させる大きな力となることでしょう。